振動がジーンズの右ポケットから太腿へ伝う。
地下鉄車両の中は生ぬるい熱気が漂い、さまざまな匂いが混じり合った空気が充満している。
iPhoneにパスコードを素早く打ち込み、受信したメッセージを開く。
電波が悪いせいかいつもよりアプリの起動が遅い。
緑色の背景に、白の文字で会社名の入った画面を見続ける。
急に電車が揺れたので左手のつり革に力が入る。
目の前で熱心に画面を凝視するこの人々は、それぞれ何を見ているのだろうか。
少し顔を上げると、トンネル内の闇を奥へ奥へと切り取る無機質な窓に、自分の顔が映る。